女性リーダーの悩み_女性活躍の理想と現実
経営者にとって、優秀な人材の育成は経営課題に直結する重要な課題です。また女性はライフスタイルの変化によって働き方を大きくかわる可能性があります。
経営サイド
優秀な女性メンバーを引き上げたいが、育成環境や組織体制がなく上手くいかない・・。
女性リーダーが増えつつある日本企業において、リーダーを任された女性にとって働きやすい環境はどう作り出せばいいのか。実例を元に、ヒントを探っていきたいと思います。
世界的に見ても女性リーダーが少ない日本企業
ILO(国際労働機関)が2015年に発表した「女性管理職比率ランキング」において、調査対象108か国中日本は96位と下位でした。(出典:ILO(国際労働機関) Women in Business and Management)
また、世界経済フォーラム「ジェンダー・ギャップ指数2016」においては、144か国中日本は111位。(ランキングでは北欧諸国がトップ4占めた)
出典:内閣府男女共同参画局: 「共同参画」
企業で女性が活躍できない要因
日本企業に女性リーダーが少ない理由は、
組織課題
・女性メンバーの育成が充分に行われていない
・女性メンバーに経験を積むチャンスを充分に与えていない
といった組織における課題がみえてきます。
当事者である女性たちも、仕事と家庭の両立の不安、ロールモデルの不在などからリーダーを打診されても躊躇しているという現実があります。女性活躍推進が声だかに叫ばれているものの、現場では出産、育児、介護といったライフイベントの変化に対応できる環境まで用意できているのは少数だと言えます。(出典:(政策会議)平成26年3月14日産業競争力会議分科会「第7回 産業競争力会議雇用・人材分科会」配布資料厚生労働省提出参考資料)
前例なし!組織の体制もととのってない!女性メンバーが活躍できるようにするには?
そこで、今回は、経営層と一緒に働き方を模索する女性リーダーをご紹介したいと思います。彼女の現在進行形の取り組みは、メンバーの能力を生かしていい組織にしていきたいと考える経営者にとって多くの示唆があるはずです。
女性リーダーの現実
※以下は一部インタビュー形式になっています(インタビューは2019年7月に収録)
今回お話をお伺いしたのは株式会社アタックス・セールス・アソシエイツコンサルタント山本なつみ様。
理想の女性リーダー_ロールモデルの存在
画像出典:ロジかわ会公式サイトより
ビジネスパーソンの中には、理想のリーダー像を描いている人も少なくない。女性リーダーとして経験を積む彼女には、「理想の女性リーダー像」はあったのだろうか。
田口
社会人として働く中で、この人のようになりたいといった理想の女性リーダー像はありましたか?
いわゆるロールモデルですよね。私自身新卒でスタートアップの企業に就職し25歳から管理職をしていました。(ロールモデルを)探したんですが最後までこの人!といったロールモデルが見つからなかったんですよ。私の視野が狭かったのかもしれませんが、仕事柄経営者の女性には沢山接してきたものの、リーダー(管理職)の女性は周りには少なくて・・・。理想のリーダー像はありませんでしたが「こんなリーダーはいやだな、自分はこんなリーダーがいいなあ」といったなんとなくのイメージはありました。人によって態度が変わったり、自分本位で感情的になるなど、周りを振り回す人間にはなりたくないと思っていました。だから「男女関係なく、社外、社内と誰からも信頼してもらえる人になろう」と思っていましたね。
山本様
リーダーに求められるスキル_リーダーになってぶつかる壁
プレイヤー時代と異なりチームのリソースをどう適正に使っていくのかが重要になっていく。「どんなリーダーになろうか」と模索する間も無く、リーダとしてチームマネジメントをすることになったなつみさん。リーダーとしてどんな壁にぶつかったのだろうか。
リーダーに求められる事
リーダーに求められることは、大きく分けて2つ。
・業務のマネジメント(チームで大きな成果を出すこと)
・人のマネジメント(メンバーを育てる)
田口
ロールモデルとなるリーダーがいない中で、チームマネジメントをしていったわけですね。リーダーは、「業務遂行能力、育成能力、コミュニケーション能力」といったマネジメントスキルを求められるかと思いますが壁にぶつかったことはありましたか。
今振り返ると育成が一番できていなかったかなって思います。リーダーとして累計80人くらいのメンバーを見てきたんですが自分の価値観を無意識に押し付けてしまっていたなって感じています。私自身は、地方から東京にきたので同年代にくらべて上昇思考が強かったんですね。同じ時間働くなら給与は多い方がいいしそれがモチベーションになっていました。本来は理念やビジョンでチームを率いて行く方がいいのに、当時は「ここで頑張ったら稼げるんだ」といった感じでモチベートさせようとしていました。だから、メンバーと噛み合わないことも多かったですね・・。
山本様
リーダーに求められるマネジメントスキル
業務遂行能力
育成能力
コミュニケーション能力
マネジメント方法を変えなければ自分の限界がきてしまう
田口
自分の価値観と相手の価値観が違う。当たり前のことですが、抜け落ちてしまうこともありますよね。それ以外にもありましたか?
業務を進める上では、成果の出し方を変えないとだめだと痛感しましたね。チームメンバーが5人くらいまでは、自分が稼働をあげカバーしていたんですよね。でも10人を超えたくらいから、現場にはいって自分がカバーすることが無理だと気が付いて・・・。右腕のような間になるような人材をつくらないと難しいと感じていました。
山本様
5人チームの時
自分が頑張る
自分が稼働をあげて成果をカバーするスタイル
10人チーム
人を育てる
自分が現場で頑張るやり方では限界に・・右腕のような間になるような人材育成が急務に
田口
プレイヤー時代は、自分ががむしゃらにやれば成果が上がっていたけれど、チームになってからはやり方そのものを見直す必要がでてきたんですね。リーダとしてコミュニケーションはどう変わりましたか。
コミュニケーションについては、やり方が変わったというより私の視野が変わったなと思います。プレイヤーの時は、現場目線で物事を見ていましたが、リーダーになってからは経営側の目線も理解できるようになりました。両方の言い分がわかるので、それをどうチームに伝えるかというのは今でも悩みます。
山本様
田口
上司(経営側)と部下(現場)では見ている視座が異なりますよね。その中で経営側の無茶振りを、どう現場伝え業務を遂行させていくのかはかなり難易度が高いですよね。
相手に寄り添うことと、チームを引っ張ることのバランスは今でも試行錯誤しているところです。
山本様
妊娠、出産、子育てライフスタイルの変化でみえた課題
画像出典:ロジかわ会公式サイトより
2018年には、産休を取得し日常生活がガラッと変わったなつみさん。出産、子育てを通じどんな変化があったのでしょうか。
田口
産休、育休を通じてご自身の中で大きな変化はありましたか?
一番変わったのは、時間の使い方ですよね。今までは、仕事以外の時間は自分の時間で自分の好きなように時間をつかうことができましたが、今は「家族のための時間」がある。
山本様
田口
自己投資する時間は自分の自由でできていたけれど、今は家庭の時間にかわったんですね。
はい。でも自分よりも大切なものができたことの方が重要なので、自由な時間がなくなって嫌だとは思わないですね。でも今後は時間管理をシビアに考え直さないといけないなと思っています。24時間の中に家庭と育児の時間がはいってくるとなると限られた時間で成果をだすことを極めていかないと難しいなと。
山本様
田口
上司、部下、取引先とのコミュニケーションをどう営業時間内でとっていくのかポイントになっていきますね。
そうですね、チームで円滑にコミュニケーションがとれているかが成果に直結するなと感じています。
山本様
産休をとるまで
全てが自分の時間
仕事以外の時間は自分の時間で自分の好きなように時間をつかうことができた
産休育休
家族の時間
自分の自由な時間は減ったかもしれないが自分よりも大切なものができた
チームメンバーとのコミュニケーションのコツ
産休育休期間中もオンラインで会議を行うなど、チームメンバーとのコミュニケーションを模索するなつみさん。リーダーが現場から離れたことでチームの状況はどう変化したのでしょうか。
田口
チームメンバーとの接触頻度が減ったことで、見えたきた課題はありますか?
今課題に感じているのは、チーム内のコミュニケーションですね。私は、業務内容を引き継げば現場はスムーズに回ると思っていたんです。でも業務を的確に行えたとしても、情報が的確に伝えられなければでチーム内で認識のずれが発生してしまい効率が落ちてしまうなと感じています。
山本様
田口
いままでは、チーム内の課題が発生したら、稼働をあげることで解決していました。でもこれから自分の稼働をあげることができない中で問題を解決していかなければいけないですよね。
そうですね。コミュニケーションスキルが属人化しているので、そこをどう解決していこうかなと模索しています。 リーダーとしての在り方は産休前と変わりませんが、やり方は変えていかないといけないと感じています。
山本様
田口
リーダーが現場から離れてしまうことで大小の問題は発生すると思うんですが、問題解決する上で変化があったことはありますか?
私自身、リーダーになりたての頃は、今回の様に問題が発生したら「人に頼るより自分でやったほうがいい!」と思い込んでいた時もありました。でも今は、自分が物理的に動けないので、メンバーや上司に頼りながら一緒に解決してければいいなと思っています。
山本様
チーム内のコミュニケーション
×業務の引き継ぎを完了させる
×リーダーの稼働でカバーする
×人に頼るより自分でやったほうがいい
○認識のずれを防ぐ
○情報を的確に伝えるコミュニケーションスキル
○頼りながら一緒に解決していく
女性リーダーとしてのキャリア
画像出典:ロジかわ会公式サイトより
田口
理想と現実の間で葛藤することもあるかと思いますが、産休育休を通して、自身のキャリア設計については変化はありましたか?
そうですね。家族という自分以上に大切な存在ができたことで、家族を犠牲にしてまでキャリアを続けることはないかなと思うようになりました。社外、社内コミュニケーションを頻繁にはできないので、労働スタイルは模索しています。前例はないですが、経営層の協力もあるので変則的であってもキャリアを積むことは可能かなと思っています。上司と一緒に役職落とさず(コンサルタントを)続けていく方法を模索しています。「顧客とのコミュニケーション(会議、面談など)も、オンラインできるようにならないか」「部下のマネジメントをどうすすめるのか」など親身に相談にのっていくれる環境があるのはありがたいと感じています。
山本様
田口
前例がない中で、新しいロールモデルをつくるには本人だけでなく周囲の協力が不可欠です。周囲の協力を得るためには何が重要だと感じますか?
他部署含め信頼関係をしっかり作ることですかね。あとは、結果を出しておくと前例のないことでも周囲が協力してくれる環境ができると感じています。
山本様
キャリア設計に大事な視点
・家族を犠牲にしてキャリアを続ける必要はあるか考える
・変則的なキャリア設計もあり
・信頼関係をつくり結果をだしておく
女性が活躍できる土台には、相互の理解が必要
田口
産休育休を経験し最後に、女性リーダーがのびのびと組織で活躍していくためには、何が一番大切だと思いますか。
私自身、
子供を産んでやっと「働く母親の状況」が理解できたと思うんです。
夕食から寝かしつけまでの17:00~20:00は本当に身動きがとれない。子供が体調崩したりして直前になって、予定が変わることは日常茶飯事。今までは、母親というスタッフがいても、大変そうだなと思いつつ何がどう大変なのかを理解していなかったと当事者になり痛感しています。
山本様
田口
子育てのリズムに合わせて仕事をしていくには、ロールモデルの存在や社内環境の整備は大切です。でもその前に「何が具体的に大変なのか」理解するところからはじめなければいけないんですね。
はい。難しいことですが、社内だけでなく最終的には社外(取引先やクライアント先)も、子育ての状況を理解することが大切だと思います。人と人の信頼関係ができて相互理解ができていれば、改善策は実行できると思うんですね。そこがしっかりできていれば、やり方はいくらでも試してトライアンドエラーを繰り返しながら そのチームにとっていい方法を選んでいけばいいのではないかなと思っています。
山本様
田口
相互理解ですね。リーダーとして仕事を続けていく女性にとって働きやすい環境は、相手の立場を理解すること、これが第一歩なんですね。
女性活躍のポイント
相手の立場を理解すること
・・「何が具体的に大変なのか」理解する
子育ての状況を理解すること
・・社内、社外も状況を理解する
トライアンドエラー
・・信頼関係をつくり、トライアンドエラーを繰り返していく
女性リーダーが能力を発揮し伸び伸び働ける環境とは
限られてた時間の中で、業務遂行能力、育成能力、コミュニケーション能力といったマネジメントスキルが求められるリーダー。方法論やツールはあくまで解決手法にすぎません。女性リーダーが活躍できる土台には、社内社外の協力体制が必要不可欠です。まずは、相互の立場や環境をリアルに理解するところから始めてはいかがでしょうか。